概要
藤田美術館が所蔵する国宝「花蝶蒔絵挾軾(かちょうまきえきょうしょく)」は、平安時代9世紀に制作されたと考えられる、現存唯一の同時代蒔絵作品として極めて貴重な工芸品です。挾軾とは、現代の脇息(きょうそく)の原型とされる調度で、奈良〜平安時代には身体の前に置いて寄りかかったり、経典や文書を置くために用いられました。本作は幅約90cm、高さ27cmの細長い形状を持ち、木製に黒漆を施し、その側面や脚部に金粉と錫を用いた研出蒔絵が施されています。蝶や宝相華、連珠文など唐風の意匠が左右対称に配置され、古様でありながら洗練された美しさを備えています。
本作は奈良薬師寺の八幡宮に奉納された神宝であったと考えられ、実際に使用された痕跡がないことから、神に捧げるために制作された特別な調度と推測されています。1957年に国宝指定され、藤田美術館の蒔絵コレクションの中でも最重要作品の一つとして位置づけられています。
見所・特徴
本作の最大の見所は、9世紀の蒔絵作品として唯一現存する点にあります。奈良時代の蒔絵と10世紀以降の蒔絵をつなぐ重要な作例であり、蒔絵史の空白を埋める資料として極めて高い価値を持ちます。金粉は後世の作品よりも粒が大きく、錫は粉状ではなく塗り重ねたように見えるなど、初期蒔絵の技法的特徴が明確に示されています。
意匠面では、天板側面や脚部に施された宝相華・蝶・連珠文が特徴的で、唐風の左右対称の構図が古代の美意識をよく伝えています。華やかさよりも素朴で大らかな雰囲気があり、平安前期の工芸美の特徴がよく表れています。また、天板には装飾が施されておらず、神が凭れる部分には蒔絵を置かないという制作姿勢から、当時の神への敬意や信仰観が読み取れる点も興味深い要素です。
さらに、挾軾という調度自体が現存数の少ない古式の家具であり、正倉院宝物との比較を通して古代の生活文化や儀礼を考える手がかりにもなります。美術品としての魅力と歴史資料としての価値を兼ね備えた国宝です。
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