与中峰明本尺牘

与中峰明本尺牘

概要

静嘉堂文庫が所蔵する国宝「与中峰明本尺牘(ちゅうほうみんぽんにあたうるのせきとく)」は、中国・元時代を代表する文人であり書家として名高い趙孟頫(ちょうもうふ/趙子昂)が、禅僧・中峰明本(1263〜1323)に宛てた書状六通から成る古文書です。趙孟頫は南宋皇族の末裔で、元朝に仕えながら書画に優れ、特に書は王羲之の流れを汲む端正で伸びやかな筆致で知られています。本尺牘は、その趙孟頫が親しい交流を持った中峰明本に送った手紙であり、両者の精神的な結びつきや当時の文人・禅僧の交流を示す貴重な史料です。

本作は紙本墨書の折本装で、元時代14世紀に制作されたものとされます。静嘉堂文庫の前身である岩崎家旧蔵品の中でも特に重要な位置を占め、1956年に国宝に指定されました。中国本土でも現存が稀な趙孟頫の真筆尺牘が日本に伝わっていること自体が奇跡的と評され、書跡史・禅宗史の双方において高い価値を持つ作品です。

見所・特徴

本尺牘の最大の見所は、まず趙孟頫の名筆をまとまった形で鑑賞できる希少性にあります。趙孟頫は元時代随一の能書家であり、その書は王羲之の古法を復興しつつ、清澄で気品ある線質を特徴とします。本作でも、柔らかくも張りのある筆致、抑揚の効いた行書の流れが見事に表れ、書法史上の重要作として高く評価されています。

また、宛先である中峰明本は元代禅宗の第一人者とされ、日本からの留学僧も多く参禅した高僧です。趙孟頫と中峰の交流は精神的な深さを持ち、本尺牘には両者の親密な関係がうかがえる内容が記されています。単なる書の鑑賞にとどまらず、文人と禅僧の思想的交わりを伝える歴史資料としての価値も大きい点が特徴です。

さらに、六通が揃って伝わること自体が極めて稀であり、保存状態も良好です。静嘉堂文庫の展覧会でも公開機会は限られており、実物を目にできることは貴重な体験といえます。書跡としての美しさと、文化史的意義の双方を兼ね備えた名品として、注目を集めています。

写真

参考文献

国宝事典

Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です